『イボ』と『水イボ』は違うのですか?
違います。
イボは、ヒト乳頭腫ウイルスと言うウイルスの一種が皮膚に感染してできます。ヒト乳頭腫ウイルスはhuman papillomavirusの日本語訳です。
日本語訳と英語読みを組み合わせてヒトパピローマウイルスと書いたり、英語名をHPVと略して書いたりもします。

このHPVには多くの種類があって、普通のイボ以外にも、ある種のものが性感染症(性病)である尖圭コンジローマの、他のある種のものが子宮頚がんの原因ウイルスとして注目されていますので、そのような話題でも、これらの異なるウイルス名を新聞・雑誌やテレビなどで見聞きされることが多いと思いますが、呼び名が違うだけで同じウイルスを指しています。
HPVのうち、さらにある種のものが皮膚や粘膜の細胞に感染すると、見た目の異なるいろんなイボができ、それらを全部ひっくるめた呼び名がウイルス性疣贅です。
『イボ』について
イボのウイルスも正常の健康な皮膚には感染できない(と考えられている)のですが、小さな傷などがあるとそこから皮膚に入り込んで、基底層にある細胞(基底細胞と呼ばれます)に感染してイボをつくると考えられています。感染を受けた基底細胞は細胞分裂が活発になり、まわりの正常細胞を押しのけて増え続けます。もっとも、理由はまだよく分かっていませんが、ある程度の大きさ以上にはなれないみたいです。こうしてできた感染細胞の塊が、私たちが日常見ているイボの正体です。外陰部や口など皮膚に連続する粘膜も皮膚と似たような構造をしていますので、同じようにしてイボができます。外陰部のイボは、特に尖圭コンジローマと呼ばれ、先にも書きましたように性感染症として扱われます。
このように、イボができるためには小さな傷を通してウイルス(HPV)が皮膚や粘膜に入り込み基底細胞に到達する必要があります。外傷を受けることの多い手足や外陰部に、あるいはアトピー性皮膚炎の子供たちなどの特に引っ掻くことの多い肘・膝窩にイボができやすいのはこのためです。
『イボ』の治療方法
イボの治療は、その成り立ちから考えて(1)原因となっているウイルス(HPV)を退治する、(2)できてしまったイボを何らかの方法で排除する、の二つの方法が考えられますが、未だ特効薬や特効的治療法は無いと言うのが現状です。イボの種類や発生部位などが患者さんよって違いますから、治療は液体窒素を用いた冷凍凝固療法、電気焼灼法やヨクイニン内服療法などの中から、それぞれの患者さんに最も適していると思われるものを選んで行われます。これは、どの患者さんにとっても「これが一番効く」と言う治療法が無いからです。一人の患者さんにとても良く効いた治療法が、別の患者さんに効くとは限らないところがイボ治療の難しいところです。
また、どの治療法を用いても、多くの場合一回の治療で治すことは難しく、何回か繰り返してやっと治るのが普通だと言うことも知っておいて欲しいと思います。「自分のイボだけが治り難いのでは?」と、焦らないことも大切です。イボは治りにくく再発することも多い病気ですが、必ず治ることを信じて、あまり神経質にならないことも大切です。皮膚科医と二人三脚で、焦らず、根気よく治療して下さい。
『水イボ』について
水イボは、専門用語では伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)と呼ばれます。イボも水イボも子供に多い皮膚病で、どちらもウイルス感染でできる点は似ていますが、イボがヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の感染でできるのに対し、水イボは伝染性軟属腫ウイルスと言う全く別のウイルスが原因です。水イボは、表面がツルツルして、みずみずしい光沢のある直径数mmから5mmくらいの小さな皮膚の盛り上がり(丘疹と言います)で、てっぺんが少し凹んでいるのが特徴です。イボは表面のがさついた硬い丘疹のことが多いですから、よく見ると、見た目も随分違いますね。
イボが手のひらや足の裏を含む手足にできることが多いのに対し、水イボは身体にできることが多い点も違います。
『水イボ』の治療方法
水イボの治療に関しては、専門家の間でも意見の別れるところです。先の小さなピンセットやリングピンセットなどで水イボを抓むと、てっぺんの凹んだ部分から小さな白い塊が出てきます。これが「水イボとり」と呼ばれる最も簡単で一般的な治療法です。極めて有効な治療法なのですが、多くは子供たちである患者さんに、痛みや精神的苦痛を強いる治療法であることが欠点です。水イボが自然に治ることも多い病気であることから、時間は少しかかっても塗り薬などを用いた痛みの少ない方法で治療すべきだと言う考えや、放っておいてもよいと言う考えの先生もいらっしゃいます。
当院では痛みの少ない塗り薬の治療をしています。ピンセットでの治療では麻酔テープを貼っていたとしても恐怖から痛みで暴れたり泣き叫んだりする子どもが多く、医療従事者や親が身体を押さえつける事となり、患児も患児の親も医療従事者も誰もいい気分にならない経験からです。他の子供たちにうつしてしまう可能性もあり、個人的な意見としては、なるべく数が少ないうちに治療した方が良いと考えています。
最終的に、どの様な方針で水イボに臨むかは、医師と保護者の考え方に依って決まります。通常、子供たちは自分で治療法を選べません。大人たちが十分に話し合って、責任をもって治療方針や治療法を選択してあげる必要があります。